基金設立の経緯

一橋大学大学院商学研究科(現在の経営管理研究科経営管理専攻)は、2015年に三枝匡氏(当時株式会社ミスミグループ本社取締役会議長、現在同社名誉会長)からの5億円のご寄附を受け、経営者人材育成事業の推進を目的とする三枝匡経営者育成基金を設立しました。

三枝氏は「将来の日本を支えるには経営者人材の育成が急務」という一貫した信念のもと、ミスミグループの経営に当たってこられました。その傍らで、次世代の経営者人材育成のため、長きにわたり客員教授として本研究科の教壇に立ち、学生教育・エグゼクティブ教育にもご尽力いただいてきました。この寄附金は、三枝氏が同社会長CEOを退任するにあたって会社から提案のあった退職功労金の一部を返上して経営者教育に注力する教育機関へ振り替えるように希望されたことで実現したものです。

基金の事業概要

三枝匡経営者育成基金は、経営者人材育成事業として、一橋大学の様々な活動を支援しています。詳細については、過去の支援実績のページをご覧ください。

寄附者ご紹介

三枝 匡(さえぐさ ただし)
株式会社ミスミグループ本社 名誉会長・第2期創業者

三枝 匡一橋大学卒、三井石油化学を経て、20代でボストン・コンサルティング・グループの国内採用第1号コンサルタントになる。スタンフォード大学でMBA取得後、経営者を目指す。奇遇が重なり、32歳で住友系合弁会社に常務として入り、1年後に社長に就任。その後、大塚製薬が救済した倒産ベンチャー、および60億円ファンドを持つベンチャー投資会社のそれぞれ社長を歴任。41歳で(株)三枝匡事務所を開設。不振事業再生専門家(ターンアラウンド・スペシャリスト)として活動。2002年、ミスミのCEOに就任。14年取締役会議長、18年シニアチェアマン、21年から現職。企業経営の傍ら、一橋ビジネススクール客員教授など教壇にも立ってきた。著書に『戦略プロフェッショナル』『経営パワーの危機』『V字回復の経営』『ザ・会社改造』。

三枝匡経営思索集

 

寄附者メッセージ

一橋大学ビジネススクール
『三枝匡経営者育成基金』に寄せて

2021年7月
三枝 匡

 日本の世界的強さが一気に崩壊してからもう30年になる。多くの日本企業が事業革新に立ち遅れ、世界優位に立つ日本企業の数は激減した。その敗退を生んだ最大の理由は、日本の経営者人材の育成の遅れだと私は言い続けてきた。

私は経営者あるいは事業再生専門家として約40年間、日本企業の事業活性化をライフワークのようにして生きてきた。業績不振の企業に行くと、例外なく直面するのは「組織劣化」「経営者人材の枯渇」「不鮮明な戦略」である。

言い古されたことだが、かつての日本企業の年功序列や横並び精神の組織は、その当時、世界的勝ちを生むには戦略適合であった。しかしその制度は大量のサラリーマン化を生んだ。個人の勝負がものをいう企業家的人材の育成は遅れた。バブル崩壊後、経営手法や技術革新の大きな変化の波が襲ってきたのに、社内にリスク志向リーダーは少なく、欧米中に対抗するスピード感で革新的戦略に撃って出る動きは広がらなかった。

一方、米国は同じ30年前を境に、急速に元気復活に転じた。その原動力は何だったか。私は彼らの「プロフェッショナリズム」を挙げる。全社改革に果敢に挑むプロ経営者、高リスクベンチャーに賭けるキャピタリストやベンチャー経営者、バイオやITなどで突出的開発を進めた技術者たち。そこに集団主義の匂いはない。彼らに共通していたのは、①戦略志向、②リスク志向、③プロ志向、そして金持ちになりたいという④マネーへの渇望であった。

プロ人材は「個人の突出」によってのみ、育つ。日本の組織は逆だった。昔も今も日本の企業組織ではプロが育ちにくい。集団性の強い規範を課しつつ、一流のプロフェッショナリズムを育むことは組織論の矛盾なのだ。日本人の平均レベルの高さは今でも日本企業の強さだが、それを率いるリーダーが弱ければ世界競争に対する戦闘力は上がらない。経営者人材の育成で日本はいまや中国にも追い越された。

日本は強い経営者人材育成へのアプローチを変える必要がある。そのため一橋大学ビジネススクールの果たすべき役割はとてつもなく大きい。

プロ経営者になる潜在性のある個人を選び出し、彼らの自律的成長にどれほどの支援と鍛えを提供できるのか。この基金はHUBが担うその任務に、少しでもお役に立てれば幸いとの思いで設立された。基金の運営はすべて大学の一存であるが、寄付者の思いをここに寄稿する機会を得て幸いである。一橋MBAおよびそのOBOGが、自分の会社ひいては日本を元気にすることに大きく貢献していくことを願っている。

一橋大学と三枝氏との関わり

三枝匡氏は、ミスミグループ本社CEO就任以前の1992年より、商学部の学士課程において非常勤講師として「特別講義(国際経営戦略論)」を数年間ご担当されました。その後、2001年からは商学研究科(現・経営管理研究科)のMBAプログラムで客員教授として「戦略的経営者論」をご担当されました。さらには商学部の経営学入門やマーケティング入門、経営戦略論、経営組織論などの科目でゲスト講演をされるなど、2019年まで都合15年にわたり、本学の多数の学生に論理性の高い戦略思考のフレームワークと、それを備えた人材が濃密な経営経験を積んでいくことの重要性を語ってこられました。また、2002年から商学研究科が創始した一橋シニアエグゼクティブプログラム(H-SEP)の講師もご担当いただいてきました。